コラム

プラスチックやマイクロプラスチックが環境におよぼす影響などの研究において、高田先生は第一人者といわれています。プラスチックにまつわる現状の問題点からお聞かせください。…
2021/06/24
Natural & Simple life

地球や大地に化学物質の傷跡を残さない
選択、行動と生き方を

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東京農工大学 農学部 環境資源科学科 高田 秀重さん
環境中の人口化学物質と輸送過程の解明が専門。1998年からプラスチックと環境ホルモンの研究を開始し、2005年から「Internation PalletWatch」を主宰。2012~19年、国連海洋汚染専門家会議のマイクロプラスチックのワーキンググループのメンバー。

プラスチックやマイクロプラスチックが環境に及ぼす研究において第一人者である高田教授に「プラスチック問題」についてお話を伺いました。

— プラスチックやマイクロプラスチックが環境におよぼす影響などの研究において、高田先生は第一人者といわれています。プラスチックにまつわる現状の問題点からお聞かせください。

生体内で分解されない異物としてのプラスチック問題が、まずあげられます。レジ袋を飲み込んだウミガメやクジラ、5ミリ以下のサイズに姿を変えたマイクロプラスチックは、魚や貝などからも検出されています。次に、プラスチックの耐久性向上などのため多用される、化学物質の添加剤から派生する問題。十分に検証されないままの添加剤が使用されています。中には環境ホルモン作用を持ち、生態系を乱す一因だと見られているものも。また、日本の場合、プラスチックは焼却処分が基本です。焼却処分は二酸化炭素の発生源となり、温暖化が加速する点などが主な問題だといえるでしょう。

— マイクロプラスチックは、なぜ発生するのでしょうか。

私達が使っているプラスチック製品、例えば、レジ袋、コンビニのお弁当箱、ペットボトル、ペットボトルについては特にフタなど、まずは、ポイ捨てが発端です。あるいは、期せずしてゴミ箱からあふれ出てしまったとします。それらが紫外線を浴び、あるいは踏みつけられるなどで細かくなります。また、風に飛ばされ、雨で流され、川や海へと入り、ここでも紫外線と風や波にさらされマイクロ化し、結果、海中にも居座ることになります。

—プラスチックを、きちんと処分すれば問題を抑えることが可能ですか。

処分しないよりは抑えることはできるとは思います。しかし実はプラスチック製品は、使用するうちに表面からマイクロプラスチックが自然発生しています。台所でプラスチック製の食器を洗う、ポリエステルやアクリル製の衣類を洗濯する。一度の洗濯で繊維状のマイクロプラスチックが大量発生することが明らかになっています。排水に紛れ込み環境へと拡散し、毎日の暮らしの中でマイクロプラスチックが発生しているのです。

—企業がノープラスチックを採用するなど、ようやく社会全体でプラスチック問題に関心が高まってきました。

取材中の様子

ウミガメやクジラからレジ袋が検出されるなど、もう何十年も前からプラスチック問題は指摘されてはいました。次第に、我々が食用とする魚介類にもマイクロプラスチックが蓄積されることが分かり、自分の身にも危険が及ぶということで関心を寄せる人が多くなったのではないでしょうか。ウミガメやクジラ、人間以外の生物のことでは、他人事だったんですね。人間の口に入るものという視点が加わって初めて、自分事になった。そんな背景があると思います。

—人間の傲慢……ともいうべき点ですね。

マイクロプラスチックは生体内で分解や吸収されることのない、異物です。異物による摩擦から炎症が発生することが細胞レベルの実験で確かめられつつあります。ただ、実験の場合、多量のマイクロプラスチックを用います。生体の排泄機能を考慮すると、果たしてそのような多量なプラスチックが生体内にとどまるのかは不明です。  しかし、プラスチック製品の耐久性向上のために添加される化学物質の一部が生体ホルモンに類似することから、ホルモンの働きを撹乱しバランスを崩すことが問題になっています。ホルモンに関係するような異常や影響を及ぼすものを環境ホルモンといいます。

—具体的にはどんな影響がありますか。

特に女性ホルモンの動きを撹乱する傾向があります。すると、男性の場合、それを女性ホルモンだと誤って認識し、精子の数が減る。女性の場合、正常なホルモンバランスが崩れ、子宮内膜症や乳がんを引き起こす要因になっているのではないかと疑われています。ある疫学調査によると、この40年でヨーロッパの成人男子の精子の数が平均でほぼ半減したという結果が明らかにされました。

ヨーロッパでは成人男性の精子数が過去40年で半減したという報告も

—ゴミ削減のためマイボトルが一般的になりました。素材選びも大切ですね。

プラスチック製のボトルに水を入れて、30分シェイクすると環境ホルモンが水に溶け出したという報告もあります。環境ホルモンが簡単に溶け出さない工夫はされているようですが、完全とはいえません。仮に食べ物や飲み物に溶け出さないとしても、マイクロプラスチックは自然発生し、簡単に溶け出さない化学物質が環境の中で残留し続けるわけです。海中から採取したマイクロプラスチックを計測すると、化学物質の残留が認められました。海の生物、魚などがそれを捕食すれば、それが脂肪や肝臓に蓄積されます。

—自然は連鎖しているということですよね。

陸上の廃棄物処理からもれたプラスチックが河川を通して海へ流入している
添加剤は水や食べ物など溶出しないための工夫はされているものの、完璧とはいえない。また、魚は添加剤を溶かし出す消化液を持つので、添加剤は魚の脂肪や肝臓に蓄積される。飲み水に溶け出す環境ホルモン、溶け出さないものはマイクロプラスチックを通して人間に。フリースなど化学繊維の衣類、洗濯1回あたり約2千本もの繊維状のマイクロプラスチックが発生する。

また、免疫力の低下との関係を示す研究も報告されています。アメリカの研究者、ボンサールらの研究によると、我々人間が化学物質に暴露されすぎており、免疫の低下などの撹乱を引き起こしていると発表されています。例えば最近の話題としてはコロナウイルスの重症化に関与するものだと警告を発しています。私は、その可能性は大いにあると見ています。そんな物質が実は、十分な試験もされないまま、プラスチックの添加剤として使用されている。食品の添加剤だけでなく、身の回りにプラスチック製品が増えることで、我々は化学物質にさらされる場面が非常に多くなっている。そのことにもっと注意を払うべきだと思います。

—プラスチックといえば、リサイクル可能な環境によい素材というイメージもありますが……。

日本ではプラスチックゴミの半分以上(71%)が焼却
年間4億トンのプラスチックが生産され、石油産出量の8%〜10%がプラスチックに、そのうち半分は容器包装。

我々が排出するプラスチックゴミ、どの程度リサイクルされていると思いますか? わずか25%ほどなんです。リサイクルできない大半のプラスチックゴミは、焼却されています。プラスチックは超高性能焼却炉で焼却しないとダイオキシンなど有害な物質が発生します。この焼却炉は、建設費はもちろん維持管理運用費など非常に高額です。また、高温で運用するため傷みやすく、寿命は30年ほど。人口約40万人規模の都市に対応できる焼却炉の建設には、約100億円が必要だと試算されています。30年ごとに100億円……、果たしてこれが持続可能な方法なのか、よく考えてみる必要があると思います。

— 処分費用は税金ではなく、本来はプラスチック製品に含まれるべきなんですね。

石油ベースのプラスチック焼却は実質的な温室効果ガスの発生となり、温暖化が進む

プラスチックゼロの暮らしは非現実的ですし、プラスチックは必要なものです。ただ、過度に、便利で安い、長持ち、という誤解があり、プラスチックでなくていいものまでがプラスチックを使用しているのが問題だと思います。なるべく自然なもの、加工してないもの、プラスチック包装でないものを選択する。暮らしの中で、なるべくプラスチックを使わないように心がける。プラスチックフリーにしていかないと、巡り巡って我々の健康自体がおかしくなるということかなというふうに思います。

— 上手にリサイクルするポイントを教えてください。

何か付着した状態のプラスチックは、焼却せざるを得ません。リサイクル可能な条件として、プラスチックが単一素材であること。そして、付着物を洗浄するなどの手間を発生させない、付着物なしの状態であることなんです。ご家庭で付着物を洗浄したり拭き取るなどしてから排出しましょう。

— 我々、石けんメーカーの課題でもありますね。

御社に限らずあらゆるメーカーさんは、固形や粉末での製品化が大事ではないかと思います。例えば液体石けんの詰替容器、容器内の付着物を拭ってゴミとして排出される方はまれだと思うんです。固形石けんならプラスチック包装だとしても、付着なしに近い状態ですから。

— 香料入りの洗濯用合成洗剤や柔軟剤の成分にもプラスチックが使用されているとか。

芳香剤入りの洗濯用の合成洗剤・柔軟剤、それには香りの成分を小さなプラスチック製のカプセル、マイクロカプセルに入れたものが配合されてます。そのカプセルが衣服につき、ゆっくりはじけていきながら、香りが持続する仕組みです。海外漂着ゴミの法律が改正され、マイクロプラスチックを含む製品の製造や販売は控えることが条文化されています。しかし、千葉工業大学の研究グループが確認したところ、昨年2019年の時点でマイクロプラスチック製のマイクロカプセル入り合成洗剤が販売されていました。明らかに法律違反だということで、消費者連盟さんなどにも情報提供して働きかけているところです。

— 化学物質過敏症などにも関係してきますね。

プラスチック問題は、現在の石油文明社会への警鐘だと感じます。東京湾の海底の泥の中にも、マイクロプラスチックが存在していました。我々人間の石油文明社会の痕跡が、そんなところまでにもあると知り胸が痛みました。プラスチックや合成洗剤など石油製品の爪跡です。石けんは、石油製品ではありません。石けんを選択するのは非常に大事なことです。合成洗剤以外にも石油から作られているプラスチック製品に囲まれた暮らしが健全なのか。少し立ち止まって商品選びをする必要がありそうです。

— 読者へメッセージをお願いします。

『我々、人間は大地を借りて生きている』というアメリカ先住民の言葉があります。何かを借りたのなら、きれいな状態でお返しするのが当然ではないでしょうか。我々は地球を、大地を借りて生きてる。傷跡を残すような行為をしないのが、我々人間としてとるべき行動なのだと思います。将来の人類に、この地球の上に残留性のあるもの、化学物質を残さずに将来の世代に引き継ぐ。海底の泥の中にも我々人間の痕跡が化学物質として残っていたのは問題なんです。なるべくそういった痕跡を残さない。痕跡については少なくともゼロにするというようなところで生きていく必要があるんじゃないかなと思います。

— 貴重なお話をありがとうございました。今後も情報を発信していきたいと思いますので、よろしくお願い致します。